ヒュンヒュンという風を切る音が響き、次の瞬間には遠くで透明な膜の様な物が眩く輝く

 ヒュンヒュンという風を切る音が響き、次の瞬間には遠くで透明な膜の様な物が眩く輝く。毛玉が吐き出した弾が結界へと着弾して崩壊させる時に閃光を発するためにまるで花火が低空で爆発しているかの様な様相となっていた。

 今八雲家が攻めているのは慧音の庵。紫が藍・橙と共に進攻を開始したのは霊夢の所へ紫が行ってから半刻程度立ってからだった。奇襲の様に始められた序盤は八雲家が有利に展開していたものの、慧音と妹紅が慧音の庵へと到着して防衛戦を展開するようになってから膠着状態の様相を示していた。

 「藍、そろそろ行きなさい。」

 「分かりました、紫様。」

 藍が一礼をして去ってゆく。

 月の光に照らされた平坦な平野で八雲家軍と博麗神社軍は向かい合っていた。八雲家の大将はもちろん紫。博麗神社の大将は慧音だった。

八雲家軍の毛玉数は5000、それに対する博麗神社の毛玉数は12500。兵力だけであれば圧倒的に優位であるはずの慧音は積極的な攻撃をかけようとはせずに半数を平野へと慧音の庵を中心として半球状に結界の内で展開。残りを二つに分けて遊撃隊として左右に配置していた。それに対する八雲家の布陣は全軍を左右に分けた物。只兵力としては4:1となっており、藍がいる左翼に1000。橙がいる右翼に4000となっていた。紫の居る中央には毛玉が全く居ない。

橙の指揮する4000の毛玉は前進することなくその場から結界に向けて弾を放っていた。遠距離からの攻撃なので殆ど結界に被害はないものの、慧音にとってそれはうんざりする事には違いなかった。

「慧音、このままずっと待っているだけでいいの?」

「ああ。霊夢から言われたのはここで紫達を釘付けにすると言う事だ。今頃霊夢達は滅罪寺院に向かっている頃だろう。私達の中で紫に単身で唯一対抗できるとしたら鬼の萃香のみ。萃香が今いない以上はここで時間稼ぎをするしかないだろう。」

「でも、結界がどんどん傷つくのを見ているのはなんとなく嫌なのよね。」

「だが私達が自ら結界を出たらどんな目に遭わされるかわからない。紫には私の歴史を食べる能力は通用しない。」

「そういえばあの夜にあっさりと見破られたんだっけ?」

「……ああ、そうだ。普通に見えると言われた。干渉力そのもので劣っている私の力ではあの者に影響を与える事は出来ない。それに属する者達も同じだろう。」

「で、時間稼ぎって訳かぁ。」

会話をしている間にも結界に弾が当たり、二人の顔を一時的に浮かび上がらせる。月が出ているのである程度の明るさはあるはずなのだが、閃光が絶え間なく辺りで発せられているおかげで妹紅には外の様子が良く分からなかった。

「ねえ慧音。私にはよく見えないんだけど、藍って何もしてないの?」

「ああ、そのようだな。」

藍がいるはずの集団へと目を向けるが、全く動こうとした様子は無い。単純に結界を破るだけなら全力攻撃をしてくるはずだと慧音は思っていたのだけれど、八雲家の2割の毛玉は全く動こうとしなかった。

 「む、どう言う事だ?」

 「どうしたの、慧音。」

 「いや、藍が居ない。何時の間にかどこかへ消えている。毛玉はそのままなのだが。」

 「どこかって何処にいるか分からないってこと?」

 「ああ、そうだ。結界があるから中に居る事はありえない。いくら紫でも境界を操って式を直接結界の中に送り込めば力の残滓ぐらいは現れる。結界とは外と内を隔てる物。外の何かが入ってくれば即座に分かる。今使っている結界はそれに進入不可の効果を付属したに過ぎない。」

 「要するに、藍がどこにいるか分からないって事?」

 「まあ、要するとそうだ。只、紫の位置は相変わらず変わらない。私達は勝つ必要は無いんだ。時間を稼げば良いだけの事。」

 そう言って慧音が大きく頷いた。

 「私は早くこの諍いを止めたい。だから霊夢に付いた。一緒に頑張ろう、妹紅。」

 「勿論。私だってたまには慧音の役に立ちたいんだから。」

 

 その頃。霊夢と萃香は花映塚と滅罪院寺を結ぶ街道上に居た。つれている毛玉は12500。紫が慧音の庵へと進攻を開始したとの情報を聞いた途端に出撃を開始したのだけれど、霊夢に紫の様な移動手段はない。毛玉をつれてゆっくりと飛行するのが精一杯だった。自分ひとり先行してもこの場合はあまり意味が無いのは分かっていた。今頃慧音達はどうしているだろうと思うことはあるのだけれど、霊夢はあらかじめ決めてあった作戦の通りに動くつもりだった。

「準備はいい、萃香?」

 「私はいつでもいいわ。それにしてもなんで鬼の私まで狩り出されてるのよ。これは人間と妖怪の争いでしょ?」

 「べつに良いじゃない。萃香に取ってみてもこの状態は好ましくは無いでしょ。こんな状態じゃ宴会も出来ないし、皆を萃めるなんて無理なんだから。ちゃんと全てが終わったら宴会を何回かするからってことでいいじゃない。」

 「交換条件って事。まあ良いわ。相手はあの紫なんだし霊夢一人で戦うのは辛いかも知れないわね。たまには戦うのも楽しくてしくて良いかもしれないし。ちゃんと約束は守ってよ。霊夢なら全く心配は無いと思うけど。」

 二人が向かっているのは勿論滅罪院寺。紫がほぼ全軍を率いて出陣したという情報は既に手に入っている。だからこそ、霊夢は全軍を二つに分けて一つが時間稼ぎをしている間に滅罪寺院を落とし、退路を断つという方法に出たのだった。兵力差を利用したこの作戦は有効である筈だった。

 「で、どう?」

 「んん、特に何も無いと思うよ。とりあえず近くに霊夢と同じ霊力しか見つからない。本当に紫達3人とも―――3妖怪とも出陣しているみたいだね。」

 「無用心というかなんというか。まあ私達にとって見ては好都合だわ。例え橙一人が残っていたとしても時間を稼がれる可能性があるし。」

 森を抜けると一気に視界が開けた。滅罪寺院には殆ど毛玉の姿は見えない。

 「……なんていうか本当に無用心だわ。盗んでくれって言ってる様なものじゃない。」

 「紫にとっては拠点なんてどうでもいいのかも。まあ取りあえず取れるものはとっておくべきじゃない?」

 「まあ、それはそうね。拠点が多いに越した事はないわ。じゃあ萃香、頼むわよ?」

 「まあ任せておいてよ。じゃあ行くよー」

 そう言って萃香がゆっくりと地面へと降り立ち左右を見回す。そして、幹の太さが直径50センチを超える大木を引き抜くと、そのまま一息で滅罪寺院へと投げつける。

 一直線に飛んだ大木は木の葉を散らしながら真っ直ぐに寺院に向かって飛ぶ。その大木は寺院に着く前に結界へとぶつかり、ゴゴーンという腹に響く大きな音と共に辺りが揺れる。結界へと投げつけられた大木は跡形も無く砕け散り、それと同時に結界にも大きな穴が開いていた。

 「こんなものでいいの?」

 「あと何回か頼むわ。とりあえず外周の結界は全部それで御願い。」

 「鬼使いが荒い人だねえ。まあ別にいいわよ、それぐらい。大した手間じゃないし〜」

 そう言って萃香が次々に大木を結界へと投げつける。その大木が結界へと直撃するたびに地面が揺れ、結界が次々に崩壊していくのが見えた。

 霊夢が予め調べておいた滅罪寺院の結界は5枚。その内で単純な物理的攻撃で破砕できるのは三枚と霊夢は考えていた。

 防御のために張られている結界とは別に寺院自体が本来持っている結界が存在する。その結界は物理的攻撃を逸らすという物。だからこそその外にある結界は萃香に壊させてそれが終わり次第毛玉の総攻撃で滅罪寺院を落とすという方法を取る積りだった。

 「あれ、なんか壊れないんだけど。」

 萃香が首を傾げる。確かに指差した先には無傷の結界があった。そこは寺院そのものが持っている結界の外。だから物理的攻撃は効果がある筈だった。

 「変ね。どう言う事かしら。」

 「あれ、誰かいるよ?」

 萃香が結界の方を指差す。

 霊夢がよく見えない目でそこを見つめると、確かに誰か人が立っているのが見えた。単純に考えると萃香の攻撃を防いだのはその人と言う事になるのだろう。

 「萃香、誰もいないんじゃなかったの?」

 「そうだねえ。今でも霊夢以外の力は感じないよ。」

 「でも、確かにあそこに居るじゃない。だったらどういうことなのよ。」

 「うーん。ちょっと考えたくないんだけど。」

 「どういうこと?」

 嫌そうな顔をする萃香に霊夢が眉を顰めながら尋ねる。萃香は何回か体を左右に振っていたが、諦めたかのように霊夢にこう言った。

 「んー。要するに霊夢がもう一人居るってことじゃないのかな。」

 「私がもう一人って……妖夢の剣技じゃあるまいし。」

 「そういうことじゃないって。紫が何かしたのに決まってる。だからあれはちょっと面倒。霊夢を元にしているんだったらかなり手ごわいだろうし。」

 ヒュン、という風音と共に何かがこちらへと飛んでくるのを感じて霊夢は慌ててそれを弾く。それは紛れも無く霊夢が使っている符だった。

 「霊夢、結界張って!」

 「一体何なのよ!」

 霊夢が瞬間的に12枚の符を空中に展開して円状の結界を張る。しかし飛んできた符はその結界を迂回すると霊夢の方へと突っ込んできた。

 「く……」

 慌ててその符を避けるが、次の瞬間にはまた符が霊夢を追尾する。

 「これって、夢想封印『集』じゃない!?」

 「そう言う名前なの、これ。霊夢がそう感じたんならそうなのかな。本気でやらないと負けるよ、多分。毛玉を下げた方がいいかも。このままじゃ巻き添えでどれだけ数へらされるか分からないし。」

 「ったくもう、何なのよ。紫が驚くって言ってたのはこれなの?」

 毛玉達へ指示を出し撤退させようとした瞬間にその毛玉の一部が結界へと取り込まれてそのまま消滅させられる。

 「霊夢、行くよ。あれを倒さないとかなり面倒な事になる。」

 「分かってるわよ。あんなの放っておけないわ!」

 二人は同時に飛び立つ。霊夢は左から、萃香は右から。二人は同時にとびかかって一撃で勝負を決めるつもりだった。けれど、突如として霊夢の前に藍が現れる。

 「藍、なんでここに!?」

 「紫様からの命令だ。黒霊夢をやらせるわけにはいかないのでな。」

 「黒霊夢っていうの、あれ。」

 「ああ、基本的には霊夢と一緒らしい。だが能力は格段に上だと言っていた。萃香とでも互角に戦えるとも。だから私はここで霊夢を足止めしていれば良い。」 

 「言ってくれるじゃない、藍。一度私に負けたのを忘れたのかしら。」

 「ふふ、あの時とは状況が違う。今は紫様に命令を受けている、霊夢に萃香の援護をさせるな、と。」

 「それがどう違うっていうのよ。」

 「式というものは主の命令を受けると主と同じぐらいに力が強まる。紫様と同等の力を持った私を、簡単に倒せると思うな!」

 藍が突っ込んできたのを慌てて霊夢は避けた。同時に符を放って動きを牽制しようとするが、確かに前に戦ったときと比べて格段に動きが早い。

 く、と霊夢は歯噛みをしながら藍へと意識を集中させた。確かにこの状況で萃香の援護をするのは無謀だ。変な事をした瞬間に藍に撃ち落されてしまうかもしれない。

 藍は時間稼ぎをしているだけ。だからこそこの状況は藍の、紫の思うつぼ。けれど、霊夢には他に選択肢がなかった。

 「藍、いくら強くなったといっても紫を超える事は出来ないんでしょう。だったら問題はないわ。」

 「口で言うだけなら誰にでも出来る。かかってくるといい。」

 藍がスペルカードを展開する。使ったカードは『式神「仙狐思念」』。弾を放ち、その弾を爆裂させて増殖させた弾で周囲を攻撃するというタイプの物だ。

 だがしかし、前回と今回はパターンが違った。前回は一つずつだった弾が今回は3つずつとなっていて弾幕密度が格段に上がっている。霊夢にとって避けきれないものではないが、時間を稼がれてしまっている事は確かだった。

 「萃香、無事で居てよね……」

 霊夢は必死に符を繰り出して藍を攻撃しながらそう小さく呟いた。

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