「……こんなところで何やってるのよ、紫。」
「あら霊夢じゃない。奇遇ね。」
「奇遇っていう言葉の使い方間違ってるわ。博麗神社の境内に座ってお茶飲んでいる妖怪と会う事のどこが奇遇なのよ。」
「あら、そんなことはないわ。霊夢に会えるかどうかなんてわからないじゃない。例えば私が藍に貴方をどこかで足止めさせておけば……」
「はいはい、分かったわよ。」
夕日に照らされて紅く染まった博麗神社。鳥居の所には霊夢が使っていたと思われる箒が集められた木の葉の上に置かれている。いつも騒がしい神社に今居る人妖は二人。八雲紫と博麗霊夢のみだった。
勝手にお茶を飲んでいた紫が霊夢用にと熱いお茶を淹れる。風鈴の静かな音色と虫の鳴き声を聴きながら二人はゆっくりと沈んでゆく夕日を眺めていた。
その夕日が沈みきって電灯の明かりに照らされ始めた縁側で霊夢が口を開く。
「で、今日は何の用なのよ。」
「あら、用が無くちゃきてはいけないのかしら。」
「普通なら別にいいわ。魔理沙とかと違って紫はいつも何かを持ってきてくれるし。でも今は状況が状況じゃない。」
「さっきのお茶……いつもと味が違わなかったかしら?」
「違わなかったわよ。そんな冗談はいらないから本題に入ってよ。色々と準備で忙しいんだから。」
「本当に?」
「紫はそんなつまらない事する妖怪じゃないでしょ?」
「そんなに信用してもらっているなんて光栄ですわ。」
「信用はしていないわよ、別に。只紫がそんなことを考えるなんて想像できないだけ。」
「あら、酷いのね。私を信用してくれないのかしら。」
「いや、いつもの言動を省みて欲しいんだけど。」
そう言って霊夢が右手を頭に当てながら軽く首を左右に傾げる。その様子を紫は楽しそうに眺めながら懐からすっと何かを取り出した。
「これ、何か分かる?」
「水道水のラベル……やっぱり紫が盗んでたのね!?」
「盗んだのは藍よ、私じゃないわ。」
「どっちでも同じ事よ。あんたのせいで幻想郷中がこんな酷い状態になってるのよ、それを分かってるの?」
「分かってるわよ。まあ別にどうでもいいわね、私にとっては。」
「……言ってくれるじゃない。なんならここで決着を付ける?」
そう言って霊夢がさっと符を取り出した。同時に陰陽球が二個霊夢の周りに出現する。
「とりあえず、話ぐらいちゃんときいたらどうなのかしら。私は戦いに来たわけじゃないのよ。やる気ならはじめから藍と橙ぐらいはつれてくるわ。一度霊夢に負けているんだし一対一でやろうとは思わないわよ。」
「じゃあ、なんのつもりでここに来たのよ。」
霊夢は臨戦態勢を解こうとしない。符を紫の方へとかざしたままその全身の微かな動きを読もうと神経を研ぎ澄ます。
「まさか霊夢が水道水を盗んでいったわけじゃないわよね、って思ったのよ。」
「私が水道水を?」
「ええ、そうよ。」
「紫が盗んだのに私が盗めるわけ無いじゃない。」
「飲もうと思ったのに誰かに盗まれたの。ビンは消えていてラベルだけがそこに残っていたのよね。家捜しもしたんだけど結局どこにも無かったのよ。」
「それで、私の所に聞きに来たってわけ?」
「ええ、そうよ。霊夢は盗んでいないのかしら?」
「それに答えなきゃいけない理由が私にあると思うの?あんたはやっぱりもう一度懲らしめてやらないといけないみたいね。」
霊夢の右手が振られ、符が紫を囲むように展開する。しかし符が展開するのと同時に紫は霊夢の真横へと移動していた。対象を見失った符が紫がいたはずの場所で虚しく交差してぶつかり合う。
「霊夢、じゃあ戦いましょう。勝った方が情報を渡すってことでいいかしら。」
「良い度胸じゃない。あの程度の戦力で私達に勝てるとでも思っているの?」
「ふふふ、楽しみにしているわ。もう一度霊夢と本気でやりあってみたかったのよ。あの時は楽しかったわね。」
「私にとっては迷惑なだけだったわ―――って、いつになったら冥界との境界修復するのよ!」
「あら、修復しなくても何の問題も無いなら修復しなくても構わないんじゃ?」
「まあそうかもしれないんだけど。」
「霊夢だってしなきゃいけないことをしないでのんびりしてるじゃないの。」
「人の振り見て我が振り直せっていうわけ?紫に言われるとは思っても見なかったわ。」
ふう、と溜息を吐きながら霊夢が首を左右に振る。
「次会ったら本気で攻撃するわ、覚悟しておきなさい。」
「それはこっちの台詞じゃないかしら。次会ったときに驚かせてあげるわ、楽しみにしていてね。」
ばいばい、と紫が手を振ってスキマの中へと消えていった。それをじっと睨みつけていた霊夢は意を決したようにどこかへと飛び立っていった。
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