夢幻の里を落とした次の日、紫は次の目標を滅罪寺院と決め、進軍を開始することにした

夢幻の里を落とした次の日、紫は次の目標を滅罪寺院と決め、進軍を開始することにした。

拠点からは次々と毛玉が現れ、辺りに漂う毛玉の数は着々と増えてゆく。

霊夢は八雲家の毛玉を8000と読んでいたが、紫がこの戦に用意出来た毛玉数は4500。予想の半数を少し超えた程度だった。

「藍様。質問があるんですが、いいですか?」

「どうした、橙。」

「はい、毛玉の事で分からない事があるんです。」

そう言いながら夢幻の里から続々と出てきて整列してゆく白い毛玉達を指差す。

「毛玉って、どうやって増やすのでしょうか?」

「ああ、そういえば橙には毛玉を作っているところを見せた事はなかったな。」

うんうん、何かを思い出すかのように藍は頷き、夢幻の里にある城砦の中へと歩を進めてゆく。

「橙は毛玉がどうやって生まれるのだと思う?」

「それが分からないんです。」

「じゃあ質問を変えよう。毛玉とは何だと思う?」

「……よく分からないです。」

そう言って橙は首を振る。その頭を優しく撫でながら藍は橙に質問をする。

「良く考えてみろ、橙。毛玉の体は何で出来ている?」

「毛じゃ無いんですか?」

「当たり前だ。毛だけで出来ている物が動くはずがないだろう。というより毛とは一体何を指しているのだ。」

橙は毛玉というぐらいだから、毛が集まって毛玉になっていると思っていたのだが、どうも違うらしい。

「えっと、じゃあ……なんでしょう?」

十秒ぐらい考えてからわかりません、と橙は藍に言った。

その回答に藍ははあ、と息を吐き出しながら肩を落とす。

「橙はでは毛玉の事を木や石や水のように無機物で、自分では何も考えられない生き物ではない何かだと考えているのか?」

「いえ、そんなことはないです。」

「じゃあ分かるはずだ。もう一度良く考えてみろ。」

そう言って藍はゆっくりと階段を下り始めた。その後ろを橙がうーん、と唸りながらついてゆく。そして、一分ぐらい経ったときにあ、と大きな声を上げた。

「藍様、分かりました。毛玉というのは妖怪なのですね。」

「ああそうだ、毛玉というのは妖怪だ。その土地が自然に吐き出す力によって生み出される最下位の妖怪の一種。今回の様な戦いの場合毛玉の数を増やしたいときにはその土地に無理矢理に力を加えて生み出させる量を増やすのだがな。」

さて、と言って藍は何も無い壁に手をかけた。

「たしか、この辺りだったと思うが……」

壁に手をあてたまま右にゆっくりとその位置をずらしてゆく。数歩歩いた所で、その手がすっと壁の中へと吸い込まれていった。

「あった、これだ。」

藍の声に導かれるかのように壁の表面に空間の裂け目が生じ、それは次第に大きくなり藍と橙を飲み込む。

そして、次の瞬間には二人は別の場所へと移動していた。

「……ここは?」

二人が現れたのは小さな山に囲まれた湖だった。その湖から白い玉が次々と浮かび上がっていくのが橙に見て取れた。

既に日が沈みかけて辺りが紅色に染まっているのも相まって、橙にはその景色がすばらしい物にかんじられた。

「とりあえず説明をさせてもらう。橙、あたりにあるものは何だ?」

そう言われて橙はあたりを見回す。けれど、橙にとって気になる物はなにも見つからなかった。

「湖と小山ぐらいしかありませんけど……」

「ああ、そうだ。私が何を言いたいのかわかるか?」

その問いに対して橙は頭を振る。

「まあこれは仕方がない、説明をしよう。結論から先に言うとここにある湖は龍穴に当たる。辺りに少し手を加えはしたが、自然のものだ。本当はもっと高い山がほしかったのだが、このあたりで龍穴になりうる場所はここぐらいしかなかったからな。」

「龍穴というのは?」

「龍穴と言うのは、龍脈によって辺りから集められた気―――要するに私達の場合は『妖力』に当たるもの―――が溜まる場所のことだ。その力を使って私が今毛玉を生み出している。だがここはあまり適した場所じゃないからな。大した量が出来ないのだ。」

その言葉に橙ははぁ、と気の無い返事を返す事しかできなかった。そもそも橙にとって龍脈という言葉も龍穴という言葉も聞くのが初めてだったからである。

ただ、ここで毛玉が生み出されているということは橙に理解できた。

「だから、紫様はこの辺り、遠野の森を真っ先に支配なされたのですね?」

「そういうことになるのだろう。それでも、やはり他の勢力と比べると格段に位が落ちる。一時に生産できる数も多くないし、現状では1万を越えるとなると維持すらできないだろう。毛玉は力の供給が断たれるとすぐに体を維持できずに消えてしまう。」

と、そこで息を切って藍は橙の顔を覗き込む。

「ともかく、毛玉はここでこうやって作っているのだ。ある程度の力が溜まる場所であれば毛玉は自然に発生する。あの白い玉が数日すると自我を持ち、毛玉となる。理解できたか?」

「はい、大丈夫です!」

「そうか、それはよかった。ではそろそろ戻ろう。出陣の時刻だ。紫様ももう起きていらっしゃる頃だろう。私達が遅れるわけにはいかない。」

そう言って藍は再び辺りの木を探り始めた。間もなくして先ほどと同じように突如として空間が歪み、二人は元の場所へと戻される。

 

二人が砦の外にでると、既に紫が立っていた。日は既に沈み、あたりは暗くなっているとはいっても普段の状態から考えると起きているのが信じられない時刻ではある。

慌てて藍と橙は紫の前へ行って頭をたれる。

「遅かったわね。どこへ行っていたのかしら?」

「申し訳ありません、橙に龍穴を見せに行っておりました。」

「そう、橙をちゃんと教育してあげなさいよ。貴方の式なんだから。」

「はい、それは重々承知しております。」

「ではそろそろ行きましょうか。毛玉達の支配は任せるわ。この程度の数なら片手間でいけるでしょう?」

「はい、もちろんです。」

紫からの問いかけに藍ははっきりと答える。

藍にとってあの程度の妖怪を支配することは無意識下で出来ることだ。流石に数万を数えるようになると、意識的に支配をすることは必要になってくるが、数千程度なら寝ながらでも問題がない。

「ではいきましょうか。近くに全てを集めなさい、スキマを使って一息に移動します。迅速な行動、これは戦いにとって重要な事ですから。」

藍が毛玉をあたりに集めた瞬間に巨大なスキマによってその全てが飲み込まれる。

残されたのは拠点防衛用と書かれている漆黒の棺桶が一つと、毛玉が百匹程度だった。

 

 

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