「紫様―――まだ寝ているのかな

「紫様―――まだ寝ているのかな。」

「そうかもしれないなぁ。まあ、今の時間ならまだ確実に寝ているだろうけど。」

視界は紅色に染まっていた。太陽は既に半分以上沈み、夜空には月や星が徐々に見え始めている。風が段々と冷たくなってきている事から、もうすぐ冬なのだということを否応にも認識させられる。

「それにしても、紫様遠野の森を落としたきりで全然攻めようとしないね。」

「まあ、紫様だしな。別にそんなことをする必要なんてないのだろうし。」

「藍様はどうおもっているの、この幻想郷の戦いについて。」

「私としてはべつにどうでもいいかな、紫様に迷惑がかからないなら。まあ、この戦いの原因が私達だっていうのは頂けないけど。」

藍が紫に命じられて水道水を盗んだ事が原因で起こったこの争い。皆が予想していた通り、三大勢力、スカーレット家・西行寺家・蓬莱山家が台頭してきていた。意外な勢力として現れたのが博麗神社。小勢力をまとめあげ、上白沢家を併呑し一気に勢力を拡大したものの、この頃は頭打ちの感があった。その理由は付近の殆どの地域が開拓されつくされているということ。現時点では蓬莱山家をしのぐ勢力を誇るが、これから先は難しいのかもしれない、と藍は考えていた。

二人はゆっくりとマヨヒガにある田んぼ間を歩きながら話を続ける。まだ作業をしている毛玉もいるが、もう殆どの毛玉は家へと帰っているようで、視界の殆どは金色の稲穂が風に揺れているのみだった。

「なあ、橙。お前はどう思う?」

「何がですか?」

「ああ、今回の戦いの勝者だ。スカーレット家・蓬莱山家・西行寺家・博麗神社・神埼一族が今大勢力だっていうのは分かるか?」

「はい、それはわかります。」

「じゃあ、どこが勝つだろうっていうのは分かるか?」

その言葉に橙は頭を傾げるだけだった。

「あはは、難しすぎるか、橙には。」

「はい、全然わかりません。」

そう言う橙の頭をよしよしと藍は撫でながら、

「もっと年を取れば色々分かるようになるさ。がんばって色々覚えて私を楽させてくれよ。」

「はい!」

橙は頭を撫でられながら、元気に返事をする。

「それで……ゆ、紫様!?」

突如として目の前の空間がよじれ、裂け目が現れる。橙の頭においていた手を慌てて離し、両手を前へと揃える。次の瞬間にはその裂け目が左右に大きく開き、傘を持った紫の体がゆっくりと現れていた。そして、紫はその口を開く。

「藍、橙、行くわよ。幻想郷を支配するわ。」

いきなりの事に藍が怪訝そうな表情をする。それ以前に、こんな時間に自らの主が起きている事など何年ぶりなのだろうと、そんなことまで一緒に考えてしまう。

「どういうことでしょう?」

「水道水が盗まれたのよ。誰が盗んだのか分からないから全てを抑えてから調べてみることにするわ。どうせ今聞いてもだれも本当の答えなんていわないでしょうし。」

「それはそうかもしれませんが……」

藍が困ったような表情をする。それに対して橙は嬉しそうにしていた。

「紫様、戦いですか?」

「ええ、そうよ。橙は戦いたいのかしら。」

「はい、藍様のお役に立ちたいんです!」

はい、と元気に手を上げながら宣言する橙を一瞬細目で紫は眺め、ぞっとするような笑みを浮かべる。

「ならば行きなさい。まずは遠野の里を落とします。次に夢幻の里を。今晩中に二つの拠点を落とすわよ。今まで私達は動いていない。だからこそ今なら落とせる。分かるわね。」

その言葉に藍は首を振る。

「失礼を承知で申しあげます。現在われわれには兵隊となりうる毛玉が殆どいません。私と橙が攻撃を加えるにしても、それぞれ数枚の結界が存在します。ある程度の兵力がなければ時間がかかりすぎて―――」

その言葉を紫は手で止める。

「結界、そんなもので私が止まるとでも藍は思っているのかしら。」

「ゆ、紫様も出陣なさるのですか?」

「当然でしょう。私が行かなければ落とせないのなら私が行くに決まっているじゃない。幻想郷を支配すると言ったでしょう。では私が行かなくてどうするのかしら。」

それが主の言葉、それが主の考え、それが主の命令であれば藍に否応はなかった。頭を下げ、はっきりと受諾の言葉を口にする。

「わかりました、そうおっしゃるのであれば。」

そう言って藍は深々と礼をする。

 

そして、その日のうちに紫の宣言通りに遠野の里、夢幻の里は陥落した。

二人がスペルカードを使うまでもなく、不意打ちにあった毛玉はあっさりと壊乱状態となり、壊滅、もしくは降伏した。その最たる理由は結界が完全に無効化されること。

結界とはつまり境界の事。内と外とを隔てるために作られている物である。

そうであれば紫の力、境界を操る力によって全ての結界は無効となる。その結果篭城しようとした守備兵はことごとく橙・藍の攻撃により全滅の憂き目にあうことになった。

 

夢幻家の当主・幽香に『八雲家、進軍開始』の情報が行った時には既に遠野の里が陥落しており、慌てて出撃したものの夢幻の里に着いた時には既にそこも陥落した後だった。

慌てて撤退を開始しようとした所に突如として後方から紫が現れ、幽香は自身が殿に立つことによって被害を最小限に食い止めたものの、決して無視出来ない量の毛玉が消失してしまっていた。たった数時間の戦闘で出撃した兵力の2割を失った幽香はあわてて西行寺家と休戦。八雲家の侵略に備える事となった。

そして、その日の内に『八雲家侵略開始』の情報は幻想郷内を駆け巡った。その反応は様々だったが、概ね予想内の範疇だと考えていた。だが、その行為は安定していたはかりのどこかに重りをのせるようなもの。バランスを崩した幻想郷は一気に戦闘を激化させてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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